歌舞伎の女方(女形)の魅力について語る

美しい容姿や、たおやかな所作。女方(女形)が出てこられると、ぱっと舞台が華やかになります。
わたしが歌舞伎を観劇する時に楽しみにしているもののひとつに、女方の存在があります。

『女性らしさ』を体現する女方

歌舞伎では、「現実では想像しにくい」ものがたくさん出てきます。

現実と比べてかけ離れた大きさの小道具(大きすぎる毛抜きや刀)や、
化け狐が話す狐言葉(話の途中の不自然なところで間延びする)や、
特徴的な形のかつら…
男性が女性を演じることも、そのひとつかもしれません。

歌舞伎は『らしさ』の演劇です。実際にはお茶を飲んでいないけれど、飲んでいるかのように『らしく』見せること。現実の世界ではありえない大きさだけれど、それ『らしい』こと。
現実にあるものから特徴をデフォルメ(強調)して、はっきりと伝えるために、長い歴史の中で洗練されてきた形なのでしょうね。
女方は、その『らしさ』の集大成のひとつだと思っています。

立役(男役)と女方(女役)

そもそも歌舞伎は、江戸時代に女性である出雲阿国が始祖となって始まった演劇です。しかし江戸幕府が「風紀を乱す」として女性が演じる歌舞伎をが演じることを禁じてから、男性しか出演できなくなりました。
その後、自然な流れとして女性を演じる女方が生まれたのだそう。

歌舞伎俳優が立役・または女方になることは、いつ決まるのか?

そもそも歌舞伎俳優は立役と女方どちらを中心に演じていくのかを、どのようにして決めるのでしょうか?
書籍やテレビでの歌舞伎俳優の発言から簡単にまとめると、特には決まっていないそうです。
御曹司(先祖代々歌舞伎役者の家に生まれた俳優)の場合はその家が得意とする役の傾向(○○家なら立役、○○家なら女方…)にのっとることもあるようですが、最終的には本人の適正と希望にあわせて、立役・女方どちらを中心につとめていくか決まっていく…という印象があります。

また、立役として有名な俳優でも演目によっては女方を演じる機会はありますし(たとえば松本幸四郎丈や中村勘九郎丈など)、その逆もよくあります。(市川猿之助丈は現在は立役もよくつとめていらっしゃいますが、以前の名跡・市川亀治郎時代は女方として経験を積まれていました。)

こちらはシネマ歌舞伎『京鹿子娘五人道成寺(きょうかのこむすめごにんどうじょうじ)』の予告映像。
人間国宝・坂東玉三郎丈と、次代を担う花形歌舞伎俳優の中村勘九郎丈、中村七之助丈・中村梅枝丈・中村児太郎丈が出演されています。

ちなみに御曹司以外の俳優(一般の家庭出身で、部屋子などを経て歌舞伎界に入った俳優)は役がつけば立役、女方に限らずこなすそうです。

肉体的に大変な女方

歌舞伎を演じる上で大変じゃないお役はないと思いますが; 実は女方ってとても体に負荷がかかるそう。
女性らしい体つきに見せるため、肩を下げて内に入れ、歩幅を小さく内股にし、歩くだけでも、肉体的にもの凄くキツイのだとか…。

また、傾城のような立派な衣装のお役をつとめる際は、重さ30kgにも及ぶ衣装を身に付け、長時間にわたる演技をされます
女性ではとても真似できない、肉体的に鍛え上げられた男性だからこそできることなのだなと思わされます…。

傾城の衣装はこちらでご覧いただけます。

個人的に大好きな女方の歌舞伎俳優3名

年若い俳優が演じられるお姫様は、初々しい雰囲気が女性から観ても本当~~~に、愛らしいです。
ベテランの俳優が演じられる女性は、上品で色気があります。また、実際の年齢と離れた姫役を演じられても、役柄同様に可愛らしく見えるのがとても不思議。俳優自身が持つ雰囲気によるものとは思いますが、歌舞伎独特の『らしい』演技がなせるものかもしれません。

最後に、個人的に大好き!!な女方の俳優を写真または映像つきでご紹介します。

中村壱太郎丈

人間国宝・坂田藤十郎丈を祖父に持ち、上方歌舞伎俳優の中村鴈治郎丈を父に持つ方。
歌舞伎を観始めたばかりの頃、中村壱太郎さんのあまりの可憐さに魅了されて以来(『封印切』という演目の傾城梅川でした)、ずっと好きな方。
目のくりっとしたチャーミングなお顔立ちが特徴。日本舞踊の吾妻流家元で、踊りの名手。姫や芸者から既婚女性まで、幅広く演じ分けられる絵演技力もお持ちです。

ご本人のTwitterより。拵えた姿を出し惜しみせずTwitterに上げてくださるので、ファン的にはとてもありがたい…!

中村七之助丈

メディアでも有名な女方俳優。十八代目中村勘三郎丈を父に持ち、兄勘九郎丈と二人三脚で中村屋を盛り立てていらっしゃいます。
浮世絵の女性のようなすっきりとした美しい容姿、よく通るお声が魅力の女方俳優。舞踊のときの視線の使い方など、本当に見惚れます…。
歌舞伎NEXT『阿弖流為』のような人ではないような者から、『野崎村』のような娘らしい可愛い演技も好きです。

出演されているシネマ歌舞伎『三人吉三』の予告編より。お嬢吉三(実は男)を演じていらっしゃいます。

坂東玉三郎丈

人間国宝、坂東玉三郎丈。敬愛の念をこめて「玉様」などとお呼びしています。
おそらく現在の歌舞伎界での最高峰の女方俳優で、今では玉三郎丈にしかつとめられない演目(『阿古屋』など)もあるそう。そのことを憂えて、後進の育成にも熱心に取り組んでいらっしゃいます。
舞台の上では指先の隅々にまで神経を行き届かせており、とにかくどの瞬間も美しいお方。ご出演された舞台を見た後は深いため息が出るほど…。なおかつお役によっては可愛らしさまで感じさせる、本当に素晴らしい女方俳優です。

シネマ歌舞伎『阿古屋』の予告編より。琴・三味線・胡弓を舞台の上で実際に演奏しなければならない、難役です。

まとめ

歌舞伎の華である女方。
いまフレッシュな雰囲気を放っている若い女方の俳優がどう変化していくのか、すでにご活躍のベテランの俳優がどう円熟していくのか…ますます目が放せません。

歌舞伎の女方について、より詳しい内容は『歌舞伎用語辞典』の『女方(女形)』のページがオススメです。