いち歌舞伎ファンから見た映画『国宝』

2025年に見た映画で忘れられない『国宝』
記憶が鮮明なうちに、感想をまとめてみようと思います。

初めに書いておきますと、わたしは関西で15年ほどのんびりと歌舞伎を観続けている、ただのいち歌舞伎ファンです。
歌舞伎が好きなひとりの意見としてお読みいただければ嬉しいです🙏

この記事は2025年12月に別名義のnoteに投稿した記事を再編集したものです。

目次

想像以上に心に残った映画

歌舞伎を描いた映画『国宝』のことは公開前からSNSで知っており、気になっていたので、公開後すぐに観に行きました。

歌舞伎役者ではない俳優が劇中劇の歌舞伎の場面を演じることに対して、見る前は
「立ち居振る舞いが気になって物語に集中できないかも」
と身構えていました⋯が、杞憂でした。

(歌舞伎をよくご覧になっている方が見ると気になるところはあるかもしれませんが、少なくともわたしには分かりませんでした。)

喜久雄と俊介の立派な舞台姿からは、吉沢亮さんや横浜流星さんはもちろん、少年時代のおふたりも含めて演じる方々が費やしたであろう膨大な稽古の時間が察せられて、役柄とも重なって深く感動。
特に映画の山場のひとつでもある二人道成寺は、喜久雄の細やかな手つきに品と色気を感じ、俊介が小道具を巧みに扱って踊る姿が美しくて、好きな場面です。

渡辺謙さん、寺島しのぶさん、田中泯さんをはじめとする俳優陣の好演もよく、どんどん展開していくストーリーと美しい映像も相まって、3時間という長さを感じませんでした。

原作を読んで、喜久雄の印象が変わった

映画を観た後で「『国宝』は映画と原作小説とで内容が結構違う」ことを知り、原作の小説も読んでみることに。
読みやすい文体のおかげで、上下巻を数日程度という、わたしにしては異例の速さで読み終わりました。

ちなみにAudible版の『国宝』は歌舞伎役者の尾上菊之助(現在は八代目菊五郎)丈が語りをしているそう。頭の中で文章を菊之助丈のお声に変換しながら読んでいました。

そして原作と映画の相違点を確かめたくなり、映画『国宝』を二度目の鑑賞。

映画国宝のパンフレット

原作と映画を比べてみると、映画の喜久雄は人としてかなり冷淡です。特に女性の扱いに顕著で、芸道を極めるために利用するだけで、顧みる様子はあまり見られません。
ラストで娘のことを「忘れたことはない」と語っていますが、「本当に?」と疑問に思わせるだけの振る舞いをしています。

一方、原作では関わった女性との交流が後年も続いており、傍から見れば人としての幸せも享受しているように見えました。もっとも本人は歌舞伎の芸の道に魅了されているので、その幸せを自覚していないかもしれませんが。
ただ、大勢の人に囲まれながらも孤独が深まっていく小説の喜久雄に比べると、ラストは映画のほうが幸せなのかも?と思います。

映画の尺の関係で省略されたところは小説で補完できるので、映画を観た方はぜひ、原作も手に取ってみてほしいです。

歌舞伎ファンとして引っかかったこと

あくまでも映画なので、歌舞伎ファンとして「現実とは違うな」と感じた点もいくつかありました。

たとえば
「渡辺謙さんが『曽根崎心中』のお初をやるの?!」とか、
「週刊誌に身元をすっぱ抜かれただけで、立派な名跡を継いだ人が大部屋のひとりになるものかな?」といった点は、観ていて引っかかりました。(後者については、小説では納得のいく流れになっている⋯と思います)

また、「歌舞伎ファンが不在の世界」という意見をSNSで目にして、なるほど!と腑に落ちました。

通常の芸能人と同じように、歌舞伎役者にもファンがいます。
花井半二郎や半弥にも、後援会に入って熱心に舞台に通うファンはいるはずですし、その中には医療従事者もいるでしょう。
また、歌舞伎は裸足で舞台に上がることも多いので、知識のあるファンが半弥の足を見たら、変化に気がつかないはずがありません。

そう考えると、あの展開は『国宝』の中で描かれた歌舞伎の世界だからこそ起きた出来事なのだろうな〜と思います。

歌舞伎役者・市川猿三郎丈による『国宝』の感想もとてもおもしろいので、よければ読んでみてください。

映画「国宝」を見た感想 | 市川猿三郎オフィシャルブログ「市川猿三郎 二輪草紙」Powered by Ameba

世襲という仕組みを、ファンとして考えてみる

『国宝』をきっかけに、歌舞伎界そのものについて考える声も多く聞かれました。
特に世襲制度についてはSNSでもさまざまな意見を目にしました。

歌舞伎を観続け、役者同士の血縁関係を知っていくと、その関係性を踏まえたうえで舞台を観るようになります。
役者を認識できるようになったら、それが歌舞伎を観る楽しみのひとつになることは否定できません。

同時に、歌舞伎の家の御曹司にかけられるプレッシャーはものすごいものだろうな…とも思います。
襲名披露公演の口上などで、まだ年若い役者にかけられる期待の言葉を聞くにつけ「わたしならその重さに耐えられるだろうか?」と、複雑な気持ちになります。

襲名披露公演の写真

ただ、現代の歌舞伎役者は子どもに歌舞伎をさせるかどうかについて、本人の意思をかなり尊重している印象を持っています。実際に歌舞伎の家に生まれて歌舞伎役者になっていない方もいますし、一度離れてまた戻ってきた方もいます。
少なくとも、今の若手の歌舞伎役者には「歌舞伎が好きで歌舞伎役者をやっている」御曹司は多いです。

御子息が歌舞伎をするかどうかはそれぞれのご家庭で考え、選ばれていることだと思うので、ファンはヤイヤイ言わずに見守るしかないです。

それに、一般家庭出身の歌舞伎役者が大役を任されることもあります。人口が減少している日本で世襲のみにとらわれていると、人手不足で将来歌舞伎が上演できなくなるかもしれません。
じきに世襲の御曹司と一般家庭出身の役者が区別なく活躍する世の中がやってくることを、願ってやみません。

『国宝』を観た人に、歌舞伎をおすすめしたい

映画『国宝』をきっかけに歌舞伎が気になった方には、ぜひ実際の舞台も観てみてほしいです。

敷居が高く感じられるかもしれませんが、イヤホンガイド(同時解説)の貸し出しなど、初心者にも分かりやすい配慮がされています。
服装も気負う必要はなく、普段着でも大丈夫なのでぜひ一歩踏み出してみてください✨

このブログの中にも、歌舞伎初心者の方に向けた記事をアップしていますので、ご参考になれば幸いです。
『歌舞伎初心者の方へ』カテゴリの記事がおすすめです。

2025年に『国宝』という映画が誕生したことに感謝して、この記事の結びとします。

元記事はこちら
いち歌舞伎ファンから見た映画『国宝』|タダエミコ

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